季節は秋に差し掛かるところで、外は少し肌寒くなってきた。
光華高校2年、永峰遼(ながみねはるか)。ぼさぼさの茶髪、顔立ちはそこそこ整ってはいるもののまるで覇気がない。
そんな永峰が現れたのが、お気に入りのサボり場所である近所の公園。
永峰は週の半分くらい、学生寮から徒歩5分のこの公園でぼーっと佇んでいる。ブランコ、滑り台、砂場。遊具はそれしか無いので人気が無い、そこも好きだった。
「……今日もいるな」
しかし今年の春くらいからだろうか、そこによく光華高校の制服を着た女子が頻繁に現れるようになったのだ。
不思議な雰囲気の子で、長い黒髪は光に透けている部分が青色に輝いている。それから右目の下には何故かいつも絆創膏が、右足の太ももには包帯が巻いてある。
そんな彼女は今日もブランコで何か考え事をしているようだった。
永峰は彼女にそっと近付いて声をかける。
「えーと、おはようございます」
永峰は人付き合いを避ける傾向にあるが、藤内との会話はそれなりにこなしていた。暇潰しの目的も大いにあるが、藤内は全くこちらに踏み込んでこないので苦にならないのだ。
永峰が声をかけると、彼女は長い睫毛に隠れた大きな瞳をこちらに向けた。
「お前さ……知ってるか、猫」
光華高校1年、藤内零下(とうちれいか)。
何故2年(永峰)が敬語で1年(藤内)がタメ口かと言うと、妙な貫禄から永峰は藤内のことを3年と勘違いしており、逆に藤内は貧弱そうな永峰を同級生だと思い込んでいるのだ。
「ねこ」
久し振りの名前に、思わず繰り返してしまった。
「ああ、ええと……知らないですね」
「切目(きれめ)から出てくる、こう、小さめの動物なんだが。昨日の夜、真っ黒な猫がここら辺に迷い込んでて」
ああ、この人はまた門限破って夜中に散歩してたのか。
「最近ここ付近で切目の話、聞きませんけど」
近くで切目が発生していたなら、そこから出てきたと推察できるが。……はて、どこからやってきたのだろうか。
「まだ近くにいるかもしれないと思って」
「捕まえてどうするんですか?」
「私はあれを飼いたい」
いつも通りの飛躍した答えに永峰は開いた口が塞がらなくなっていた。
「可愛かったんだ」
そこに言い訳のように付け足され、
「……それは、しょうがないですね」
謎のフォローが付け加わる。
「だからもし見かけたら教えて欲しいんだ」
そう言ってブランコを勢い良く1漕ぎ、2漕ぎ…そのままジャンプして着地する。できなかった、転ぶ、動かなくなる。
「うわ、大丈夫ですか」
永峰は慌てて鞄から何か手当できるものを探そうとする。
「大丈夫だ、私は学校に行かないと……!」
そう言うと、急に動き出して公園の出入り口に向かって走り出していた。
「今日は、給食が揚げパンなんだ」
それを聞いて、残された永峰は「なるほど、俺も行こうかな」と後からのろのろと学校へ続くのだった。

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